沖縄のハブとヘビを想う(前編)
やんばるでのロードキル事故を少しでもなくそうと作られた「STOP! ROADKILLマグネットステッカー」を車に貼っています。
冒頭画像の下(緑色)は、オキナワイシカワガエルがデザインされたもので、上(黄色)はヘビ(ハブとアカマタ)がデザインされたものです。
デザインはともに琉大生(2016年現在)のFくん。
オキナワイシカワガエルの方は下記記事で紹介したように、国頭村にある「ウフギー自然館」で配布中ですが、ヘビの方はF君本人がデザイン・作成し配布しているものです。
こちらの記事もどうぞ
→STOP! ロードキルマグネット「オキナワイシカワガエル」
ヘビのデザインのものは、Fくんに聞いたところ、残念ながらすでに配布終了(完売)とのことでした。
(増刷の希望は伝えました!)
今回のハブとアカマタデザイン、私がとっても気に入っていることを本人に伝えると、
Fくんの一言「一番犠牲になっているのはこいつらですから。」
―ヘビが一番車に轢かれている―
その真意、わかりますか?
猛毒のヘビとして恐れられてきたハブ
ハブ(ホンハブ)は、沖縄諸島と奄美諸島に分布する日本固有種(日本にしかいない種)で、猛毒を持つうえ攻撃性が非常に強いことから、昔から住民に恐れられてきました。
現在のような抗毒血清治療がなかった時代には、咬まれた部位の切断や重度の後遺症、あるいは死亡することも多く、ハブは本当に恐ろしい存在だったことでしょう。
その恐ろしさゆえ、太古の人たちは、ハブを”神の使い”と畏怖し、崇め、ともに暮らしてきました。
ハブを恐れて森が守られてきたとする説話もあります。
現在、ハブによる被害は少なくなったとは言え、恐ろしい存在であることに違いはありませんが、近代以降においては、ハブに対するこのような畏敬の念は失われてしまいました。
有害動物(悪者)となったハブ
1910年、はるかガンジス川からマングースが沖縄本島に連れてこられました。
当時、重要な収入源のサトウキビに被害を与えていたクマネズミ。一方、ハブは、餌のクマネズミを求めて民家やサトウキビ畑に出没し、ハブに咬まれる被害が深刻な問題となっていました。
そこで、クマネズミとハブの駆除を期待して沖縄にマングースが連れてこられたのです。
クマネズミは、もともと沖縄にいなかった外来種。
インドシナ半島が原産とされ、交易つまり人に随伴して広がり、現在は汎世界的に分布しています。
サトウキビが重要な産業となった時代以降、このクマネズミがハブと人との関係を大きく変えた一因になったのではないでしょうか?
沖縄にクマネズミが侵入した年代はわかっていませんが、クマネズミがいなかった時代、ハブは森やその近くで暮らし、人の生活圏とある程度すみわけができていたと考えられます。
しかし、クマネズミが民家や畑に侵入して大量に繁殖するようになると、そのクマネズミを餌として民家や畑に出没することが増え、すみわけの境界線が消えていったのではないでしょうか?
しかも、サトウキビ畑は高い草で密に覆われた環境なので、ハブが入りやすく、農家はハブに気づきにくい(だから咬まれる)、という面もあったと思います。
また、近代化による人々の自然観の変化ももちろん大きな要因だったでしょう。
ハブに限らず、あらゆる自然に対して畏敬の念を持ち、自然と共に暮らしていた時代は終わり、生物は人間にとって「益」か「害」かだけの尺度で見られるようになりました。
こうして、”ハブは有害(悪者)”というだけの動物になったと考えられます。
マングースのハブ神話
クマネズミとハブを駆除してほしい、と放されたマングース。
人間の都合だけの目論見が失敗だったことは周知のとおり。
(ただ、当時の被害の深刻さや時代背景を考えれば、過去を批判するのではなく、教訓を学ぶべきでしょう)
マングースは、昆虫などの節足動物をはじめ、トカゲなどの爬虫類、両生類、鳥、小型哺乳類、果実など、実に何でも食べる動物です。攻撃的で猛毒のヘビをあえて襲って食べようとするはずがありません。
また、マングースが昼行性に対して、クマネズミやハブは夜行性。狙って探そうとしない限り、マングースがクマネズミやハブと出会う機会はあまりないでしょう。
マングースは、ハブどころか、ヤンバルクイナなど沖縄在来の希少な生き物を捕食していることがわかり、生態系への影響が懸念されることから、現在は国や県が防除事業を行っています。
しかし、マングースのハブ神話は1970年代まで続き、1979年に沖縄本島から奄美大島にも放され、沖縄本島と同様、奄美でもマングース被害が問題となりました。
さて、マングースのハブ神話、つまり「悪者のハブを退治するヒーローマングース」は観光ショーにもなりました。
そう「ハブとマングースの決闘ショー」。
かつては、沖縄観光の名物で各地で行われていましたが(現在は2000年の「動物愛護法」改正で禁止)、これは予めマングースが勝つように仕込まれた見せ物であり、自然界で「マングースがハブの天敵」、というものではありません。
当時、このようなショーを行う観光施設では、ショーに用いるためのヘビを、県内の他の島や外国から大量に輸入していました。
また、ヘビショーの人気に伴い、観光土産となる薬用のハブ酒(民間薬であり、効用の科学的根拠はない、とされる)の材料としても、酒造会社がヘビを大量に輸入していたケースもあります。
実は、ハブ退治のためのマングース移入を第一の不幸(生態系被害)とするなら、このヘビショーブームが第二の不幸を生み出すことになります。
その不幸とは?(後編に続く)
続きの後編もご覧ください。
→沖縄のハブとヘビを想う(後編)
オススメ! オキナワマルバネクワガタとやんばるの森を想う