前回、「ヘビが一番車に轢かれている」その真意について、”神の使い”から有害動物(悪者)となったハブについて書きました。

また、ハブ退治のためにマングースを連れてきことが生態系被害という不幸を生み出したこと、さらにマングースとの決闘ショーがさらなる不幸を生み出す結果となった・・・、

ということで、続きとなる後編です。

前編をお読みでない方はこちらの記事からどうぞ
→沖縄のハブとヘビを想う(前編)


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有害動物(悪者)のハブが生んだ新たな被害

マングースのハブ神話から生まれた「ハブとマングースの決闘ショー」
本土復帰以降、沖縄の観光施設では、ヘビショーが一大ブームとなりました。

さて、ヘビショーブームが終わり、残ったものは何でしょうか?

それは、沖縄本島にいなかったヘビたち。
そう、外来ヘビ

南部の糸満市などに見られるサキシマハブは、本来の分布は八重山諸島ですが、1976年に糸満市の施設から約100個体が盗難、その後、遺棄され、広がったと考えられています。

また、台湾原産のタイワンスジオ(無毒だが非常に大型)は、1970年代以降、恩納村など本島中部で捕獲が相次ぎ、現在は中部を中心にかなり広域に分布を広げています。2000年代は、本部半島(本部町、名護市)でも確認されており、恩納村、名護市にはそれぞれタイワンスジオを輸入していた施設があることがわかっています。

同様に、台湾や中国等を原産とするタイワンハブが、1993年に本部半島(名護市)で、2005年に恩納村で相次いで見つかりました。やはり、そこには、かつてタイワンハブを輸入していた施設があります。

これらの外来ヘビは、かつてショーや酒の材料として輸入されたのち、盗難や遺棄、逃げ出してそのまま定着したと考えられています。
サキシマハブとタイワンハブは、本島のハブ(ホンハブ)よりも小型で性格がおとなしいことから、マングースとの決闘ショーにもよく用いられていたようです(もちろんマングースが勝つため)。また、安く大量に輸入できたのか、ハブ酒にもよく使われました。

ショーや酒の材料として輸入されたヘビに関する詳細は、沖縄県衛生環境研究所報(第30号:133-136, 1996)をご覧ください。
http://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/syoho/documents/s30_133-136.pdf

 

名護市においては、近年、タイワンハブが爆発的に増えています。
名護市環境対策課がトラップ(罠)による捕獲を行っていますが、平成27年度はタイワンハブだけで465匹の捕獲がありました。もともといるハブ(ホンハブ)の捕獲数は、1桁だそうです。
タイワンハブは、はじめに見つかった為又・中山地区から生息範囲を年々拡大させており、名護市では注意を呼び掛けています。

ハブを有害動物(悪者)としたことで、ハブ退治のために連れてこられたマングースや、マングースショーで負けるために連れてこられた外来ヘビが沖縄に定着することになりました。
これら外来種による生態系への影響はもちろん、サキシマハブ、タイワンハブに関しては新たに毒蛇咬傷事故の危険性が出てきたことになります。

つまり、ハブを単なる有害動物(悪者)として扱うあまり、この誤った価値観が生態系被害や新たな咬傷被害を生み出す結果となったのです。

 

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これからもハブは有害動物(悪者)ですか?

沖縄県ではハブ対策を行っており、市町村がトラップ(罠)を設置して捕獲したり、住民へのトラップ貸し出し、普及啓発を行っています。

その結果、沖縄県全体でのハブ類(ハブ、ヒメハブ、サキシマハブ、タイワンハブ)の咬傷事故件数は、1964年以降の統計で、ピーク時の年間500名以上からここ10年は100名前後まで減少しています。ハブだけみれば50件程度でしょうか(2013年:42件、2014年29件、2015年:23件)。
また、ハブ類咬傷による死亡事故は2000年以降、発生していません(2015年現在)。

ハブ類被害の詳細データは沖縄県HPをご覧ください
http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/hoken/eiken/eisei/habunohigai2.html

 

しかし、ハブに対する憎悪、怨恨のような感情はまだまだ根強いように感じています。

その一つがヘビのロードキルで、「ハブはタイヤを往復させて轢き殺す」「ヘビはすべてハブと一緒、轢き殺すもの」、そう地元の方から聞きました。
また、ハブはもちろん、無毒とわかっているヘビでも、集落とは関係のないところにいたヘビでも、ヘビ殺しの自慢話をします。

ハブロードキル

ハブ轢死(やんばるの林道にて)

 

マングースから学んだはずの教訓は何だったのでしょうか?

「益」か「害」で生物を見る時代は終わり、在来の生き物を守り、地域本来の生態系を取り戻すことが、現代人に求められています。
人間が暮らすはるか昔、ハブも琉球列島の成立とともに生き、進化してきた、沖縄の生態系を構成する一員に他なりません。

もちろん、集落では、ハブは捕獲する、ハブが住みにくい環境にする、不意な遭遇を避けるため草刈りなどで見通しをよくする、といった対策はこれからも必要でしょう。
でも、ハブを「害」や「悪」として扱うのではなく、ともに生きるべきものとし、捕獲して殺すのではなく、可能なら離れた場所へのリリースを検討することも必要ではないでしょうか?

もう十分ハブは減りました。
咬傷事故件数の統計データが示しています。

むしろ、私たちがすべきことは、マングースショーが外来ヘビを侵入させたことを猛省し、減ってしまったハブのニッチに入り込むかのように増え続ける彼らを抑えることではないでしょうか?

 

ハブがニホンオオカミにならないことを願います。

 

”今も残るマングース神話”

地元の方と話をすると、いまだに「マングースはハブより強い」とか「マングースはハブを食べる」と言う方がいて驚きます。

「そらをとんだマングース」(石川キヨ子/安室二三雄、沖縄時事出版、1983年)という絵本があり、娘の幼稚園にもありました。
ハブに苦しむ沖縄の動物たちがマングースをインドから連れてきて、ハブ退治をお願いするという内容です(現実は、マングースが沖縄の動物を苦しめているのですが・・・。絵本での動物は、「島民」ということでしょう)。

もしかすると、マングース神話がこういったところから今も残っているのかもしれません。

私が子どもにマングースの話をすると、3歳の娘が「ハブよりつよいー、マングース!」と楽しそうに歌うのです。
本人は意味もわからずに歌っているのですが、聞くたびにぞっとしてしまいます。

※「ハブが悪者、マングースが悪者」というものではありません。
マングースも我々人間の身勝手な都合で連れてこられただけで、そこで必死に生きてようとしているに過ぎません。
しかし、マングースも外来ヘビも放置するわけにはいかないのです。
問うべきは、不幸な生物を生み続ける身勝手な人間でしょう。

 
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